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私学の生徒募集に必要なマーケティング発想(1)

  • 3 日前
  • 読了時間: 5分

私立中高(以下、私学)の生徒募集は年々厳しさを増しています。入学定員を確保できない事態が長く続くと、学校の存続に関わりますので、今や生徒募集、すなわち入試広報の強化は最優先の経営課題といえます。では、入試広報を強化しようというとき、学校はどのような対策を打つでしょうか。たとえば、学校説明会やSNSの充実、有力な媒体への出稿、見栄えのいいホームページや学校案内の制作などが想定されます。しかし、これらは従来の活動の域を出ておらず、一過性の対策で終わってしまいそうです。

受験生を奪い合う環境となった今では、既存のアプローチでは限界があります。これからの生徒募集には、マーケティング発想に基づく戦略が不可欠となります。その理由と具体的な取り組み策を2回に分けて解説します。今回は、学校を受験してくれる保護者像を的確にとらえることの重要性を取り上げます。


私学に必要なマーケティング発想


日本マーケティング協会は、2024年にマーケティングの定義を変更しました。その定義を要約すると、マーケティングとは、「単にモノやサービスを売る行為ではなくて、顧客や社会とともに持続可能な価値を創造し、すべての関係者と良好な関係を築く活動」ということです。

この定義を私学に置き換えると、マーケティングとは「学校が顧客(生徒・保護者)と一緒に永続的な価値を創り、ステークホルダー(教職員・取引先・卒業生・在校生・保護者など)との良好な関係を築く活動」と言えるでしょう。一見すると、普段から学校が自然にやっていることのように見えますが、実際に行うにはいくつもの障害があります。


まず、学校は顧客である生徒・保護者のニーズを把握しているでしょうか。そもそも、どのような価値観を持つ保護者の子どもが入学し、生徒・保護者は学校に対して何を期待しているかを把握する仕組みがないのではないでしょうか。

次に、生徒・保護者のニーズが把握できたとして、その全てに応えることが可能でしょうか。限りある学校の経営資源(教職員、予算、施設など)で、多様化する生徒・保護者のニーズに対応することは不可能に思えます。

私学は、「いい教育をすれば生徒・保護者は満足する」と考えがちです。しかし、学校が考える「いい教育」と、生徒・保護者が考える「いい教育」の定義は一致しているでしょうか。ここがマーケティングの出発点である「永続的な価値の創造」の原点になります。


セグメンテーションの重要性


セグメンテーション(Segmentation)とは、市場や顧客全体をさまざまな切り口から分類し、共通の特性を持つグループに細分化することです。分類の基準には、年齢、性別、価値観、購買行動などがありますが、どういう特性のグループに分けたいかによって、分類軸は変わります。そのようにして、市場を細分化したのが「市場セグメンテーション」で、顧客を細分化したのが「顧客セグメンテーション」です。

たとえば、衣料品メーカーの市場セグメンテーションを考えてみましょう。縦軸に商品のライフサイクルをとり、定番商品かトレンド商品かに分類します。横軸に商品のテイスト(デザイン)をとり、カジュアルかフォーマルかに分類します。4つの象限に該当するメーカーを記入すると、下図の「市場セグメンテーション」ができあがります。この図をみると、メーカーごとの戦略の違いが見えてきます。

図1.衣料品メーカーの市場セグメンテーション(イメージ)
図1.衣料品メーカーの市場セグメンテーション(イメージ)

セグメンテーションの最終目的は、ある軸で分類してできたグループに対して意味づけを行い、それぞれのグループに対する有効な戦略を立案することです。もちろん、何もしない(経営資源を投入しない)というのも立派な戦略です。


私学の顧客セグメンテーションの例


では、私学の受験生保護者のセグメンテーションを考えてみましょう。

まず、分類の軸は「家庭の教育方針」と「学校への期待」の2軸とします。次に、それぞれの軸に対局的な指標(ここでは価値観)を定めます。たとえば、「家庭の教育方針」は、管理・安定志向(面倒見が良い、生活指導が厳しい、進路指導が手厚い・・)と自律・挑戦志向(生徒に任せる、自由な校風、失敗経験・・)に分類します。「学校への期待」は、成果重視(大学合格実績、偏差値、英検取得・・)と成長重視(学習プロセス、探究学習、非認知スキル・・)に分類します。

そうすると、下図のように4つの象限にそれぞれ共通の価値観を持つ保護者のグループができるので、ふさわしいグループ名をつけます。

図2.受験生保護者のセグメンテーションの例
図2.受験生保護者のセグメンテーションの例

ところで、保護者の中には、伝統校、共学校、別学校、宗教校など学校属性を重視する層がいます。上述の分類軸に学校属性の分類軸を加えて、セグメントを増やすことは可能ですが、そこで追加されたセグメントに対して、学校が受験生を増やす有効な手を打てそうにありません。そのように考えると、学校属性は通学時間や学費と同じように、学校の選択条件ととらえて、セグメント化とは切り離して考えたほうがいいでしょう。


セグメント化のためのアンケート設計


受験生保護者の価値観やニーズを把握するにはアンケート調査が適しています。たとえば、入試が終わった時点で、「合格したけれども入学しなかった」保護者にアンケートを出すと、一定の回収率が期待できます。もちろん、入学した保護者にも同様のアンケートを実施するとよいでしょう。

アンケート設計では、定めた軸ごとに「どちらも大事だが、あえて選ぶならどちらか」というトレードオフの質問を複数用意します。

たとえば、次のような質問が考えられます。

<家庭の教育方針>

・学校は生徒を細かく指導すべきだ

・失敗から学ぶ教育が重要だ

<学校への期待>

・大学進学実績はとても重要だ

・教育の成果は人格形成である

これらの質問に、「とてもそう思う」(5点)~「全くそう思わない」(0点)で回答を求め、点数を集計してグループ化します。


受験生保護者のセグメンテーション目的は、あくまでも生徒募集の戦略に活かすことです。実際にアンケートを設計する際には、各校のおかれた状況に応じて、どのような質問を、どのように回答させるかを工夫する必要があります。

 
 
 

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